少子高齢化や社会環境の変化など、子供たちを取り巻く環境が大きく変わってきている今、「キャリア教育」の重要性が問われ続けています。「進学」か「就職」か、最初の大きな選択が迫られる高校では、どのようなキャリア教育をするべきか迷っている先生方が多いのではないでしょうか。
文部科学省でも、高校生の段階で、全ての生徒に「働くこと」や「学ぶこと」への意欲を高め、社会人として自立する為に必要な能力を身につけることが大事であると提唱しています。そのために、「キャリア教育」という場を学校や地域が高校生に与えることが重要になってきています。
では、職業的・社会的な自立の具体化が求められる高校において、どのようにキャリア教育を行えばいいのか,,,成功事例を挙げてご紹介したいと思います。
「まちを将来世代につなぐプロジェクト」
徳島県神山町が進めている「まちを将来世代につなぐプロジェクト」をご存知でしょうか?
経済産業省キャリア教育アワードで奨励賞を受賞したこのプロジェクトでは、地方創生事業が抱える課題に、高校生が企業や地域の人と協力しながら向き合っています。
循環型の農業や環境整備に取り組んだり、情報発信や商品開発への最新技術の投入、アイデアを提供するなどの活動を通じ、未来につながるリーダーの育成を行っているとのことです。
活動開始の経緯
2014年に始まった「まちを将来世代につなぐプロジェクト」では、神山町産業観光課から神山町のいろいろな取り組みについて学んだ徳島県立城西高等学校神山分校の生徒が、地方創生事業に関する神山創生戦略の4つのプロジェクトを協働しています。
古民家再生プロジェクト
町内の空き家を改善・修理し、移住希望者向けの賃貸住宅を作る取り組み
集合住宅プロジェクト
地元に自生する植物の採取や育成を通して、集合住宅を建てる際の緑地化に協力する取り組み
孫の手プロジェクト
一人暮らしや高齢者のために、高校生が学習成果を生かして、周りの環境整備をお手伝いする取り組み
フードハブ・プロジェクト
地域や学校で作った農産物を使って、地元企業と協力して地元の調理方法を学びながら「食」を提供していく取り組み
それぞれのプロジェクトは「協力性」「継続性」「実施性」「発展性」の観点から様々な工夫がされています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
・「協力性」への具体的な取組み
高校生が地域の企業と連携し、地元神山杉を使った商品開発や販売活動を展開しています。神山町教育員会からは地域の障害スポーツ大会での入賞楯の製作を依頼され、高校生らしいオリジナル作品を仕上げました。また、地元の有機野菜を使って高校生発案のお弁当を開発・販売しています。
・「継続性」への具体的な取組み
「孫の手プロジェクト」は、生徒が自ら一人暮らしや高齢者のお宅にチラシを配り、困った事や手の届かない環境整備をお手伝いする活動。有償型で地域への貢献活動を行っています。
始めは教員先導で行っていましたが、何回か実施するうちに、自然と積極的に生徒から動くようになったとのこと。事前の依頼者宅訪問での必要な人数や場所の確認、道具の手配まで生徒が自主的に動くそうです。その経験から計画力が養われ、また、このような取り組みが後輩にも伝わり、継続的な実績に繋がっています。
・「実践性」への具体的な取組み
神山町にサテライトオフィス(会社のオフィスではなく、社外のオフィスや遠隔勤務用の施設に設置されたオフィスのこと)を置くIT企業などは、徳島県立城西高等学校神山分校の高校生と4つのプロジェクトの内外でさまざまな実践をおこなって生徒のキャリア形成を支援しているそうです。
例えば、3Dプリンターや高性能レザーカッターなどを高校生に体験させたり、商品開発や販売リサーチなどを通して、経営者としてのモチベーションも学ぶことができるそうです。
「発展性」への具体的な取組み
神山町に事務所をおくIT関連企業と連携し、城西高等学校神山分校の「森林女子」グループが林業振興を宣伝する目的でPR用のプロモーションビデオを作成。効果的な宣伝活動になったとして、徳島県知事より感謝状をもらいました。
「森林女子」とは、町のかつての主力産業であった林業を盛り上げようと、生徒有志で結成されたグループだそうです。地方創生事業に触れることで、地元の産業に興味をもち、楽しみながら行動を起こす姿勢は、「キャリア教育」の目指すものではないでしょうか。
他にも、高校主催のキャリア教育講座では、特別講師として招いた県知事に、本プロジェクトの取り組みを生徒自ら報告。そのプレゼンテーションや、講座を通しての生徒の感想から、目的を持って将来の仕事を選択しようとする姿勢が、確実に芽生えてきているのがうかがえたそうです。
学校現場からの評価・感想
・徳島県立城西高等学校神山分校では、できるだけ早い時期から目標意識を生徒に持たせるようにしている。地域の協力もあり、校外での企業見学や実践体験、外部からの講師を招いてのキャリア教育の講演会や進路相談会を積極的に実施。生徒の能力や適性を見極め、それぞれの生徒にあった進路先を選べるように、進路指導の充実とキャリア教育の推進に全校をあげて取り組んでいる。
・2015年度卒業生は、就職して三か月以内の離職者が5名いたが、2016年度卒業生の離職者は1名だった。キャリア教育を通して学んだ職業観の効果が表れてきたのだと思う。
受賞理由
最後に、キャリア教育アワードの受賞理由をご紹介したいと思います。高校でのキャリア教育のヒントがたくさんあります。ぜひ、参考にしてみてください。
・高校が町と連携して行政施策に取り組んでおり、様々な施策に高校生の意見を取り入れることで、生徒のキャリア教育を促している。
・生徒は、自分の住んでいる地域の問題に向き合うことで、ハッキリとした目的をもって活動できるため、主体性が養われている。
・自分が生活する地域への理解を深め、学ぶというプロセスが、地元の創生という形で目に見えるのは、高校生にとって、大きな励みになっている。
・実践的な計画は、主体的で独創的なキャリア形成の支援になっており、様々な世代との交流は人生設計の学びに有効である。
・活動は有償型であるため、ビジネスとしての視点も養われている。
・商品の開発・販売や地域からの要望といったPDCA成功体験が高校生の自信とつながる取り組みである。
いかがだったでしょうか?
社会の変化とともに必要なスキルがかわり、学校に求められることも大きく変わってきています。この記事が、これからのキャリア教育を考えていく上で、少しでも参考になれば幸いです。