近年、高卒新卒者の求人倍率はうなぎ上りです。厚生労働省の発表によると、春3月卒業予定の高校生の就職内定率は2018年10月末で77.2パーセントと8年連続で前年同期を上回っています。全体として高校生の売り手市場が続いていますが、今回は「商業高校・商業科の就職」について注目してみます。
商業科卒の就職者は減少傾向
2018年10月末の商業科の内定率は83.2%と工業科89.4%につぐ2位。商業科の生徒は高い人気があることがわかります。一方、商業科・商業高校は生徒数・就職者数はともに減少が続いていて、現在の就職者は約28000人と90年代初めの2割程度になりました。時代の変化にともない、求められる資質や必要とされる人数なども変わっています。商業科・商業高校の進路・就職指導の「今」はどのような状況なのでしょうか。
商業高校の就職指導の変化
商業科・商業高校での進路指導・就職指導のあり方も以前とは変化しているようです。労働政策研究・研修機構(JILPT)のヒアリング調査から、商業高校の現状と指導の取組みをご紹介したいと思います。
東京、埼玉などの「流入地域」(地元企業が多く、他県からの就職者も多い)のA商業高校の場合
【特徴】
・就職者は毎年100~150人前後
・一人一社制の方針で選考
・企業見学は応募する1社のみ
求人も多く、人気企業には競合する生徒がでてくるため、一人一社の選考方式をとっており、企業の見学も応募予定の1社のみとしています。
【就職指導の取組み】
・就職希望者はハローワークが行う合同企業説明会に全員参加させ、複数の企業から情報を取るように指導している。
・教師が継続的に企業訪問し、人事の考え方や能力観を聞いて生徒にフィードバック。教科教育にも反映している。
長野などの「バランス地域」(他県からの就職者と地元就職がだいたい同じ)のB商業高校の場合
【特徴】
・就職者は100人弱
・基本的に一人一社で選考するが、わずかなケースのみ
・企業見学は応募前に1人3社程度見学できるように調整
【就職指導の取組み】
・2年生から地元企業とのさまざまな接点を作り、金融機関同士の情報交換をするフェアにも生徒を参加させるなど、多くの機会を提供することで、生徒の自己選択を促している。
秋田・島根・青森などの「流出地域」(他県への就職者が多い地域)のC商業高校の場合
【特徴】
・就職者は30人から50人弱
・一人一社制の原則はあるが、実質的には行っていない
・応募先を決める前に複数の企業を見学
県外への就職者希望者は企業からの要請がないかぎり、校内選考はせずに応募させています。
【就職指導の取組み】
・1年生より地元企業の見学、職人の講演会、商工会が主催の企業見学、インターシップなど地元企業との関りをさまざまな段階で設定。
・校内で地元企業との懇談会を開催するなど、高校生の視野を広げることで、職業観を養い、現実とのギャップを埋めようとしている。
・追指導として、教員が企業を訪問し、企業の求める労働力の質の変化や「育ててくれる」企業かの見極めをおこない、生徒へフィードバックすることで、生徒の自己選択を促している。
ヒアリング結果から、流出地域やバランス地域では、地元の労働市場との関わりを多く持たせようとする指導が多いことが分かります。
現実の労働市場との接点を持たせるメリットとして、
・若い働き手の地元定着による地域復興
・労働市場が一定の範囲に限られるため、地域のネットワークを活用しやすく、学校と地元企業のニーズがお互い理解しやすい
・就職希望の生徒が少数のため、指導に手がかけられる
などが、挙げられるでしょう。
商業科の強みでもあった事務職は、AIなどロボットに取って変わられる時代もそう遠くはないかもしれません。高校での職業教育の新たな制度も導入されるなど、いろいろな変動の要因があります。これにともない、商業高校の卒業者に求められる労働力としての質や量も変わってくると予想されます。
企業にとって若年人材の確保は大きな課題であり、求人に関する情報の開示がすすむと思われます。今後、生徒自らがたくさんの情報を整理し、選び取っていく必要があります。適切な就職指導がより重要になってくるでしょう。