高卒生が多数就職している製造業。しかし近年、「若手人材の製造業離れ」が危惧されています。人手不足による技術継承の難しさなどが指摘される今、日本を支えてきた「ものづくり産業」の維持と発展のためにも、若手技能者の育成と定着への取組みが急務となっています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)のものづくり企業を対象とした調査の結果から、製造業における若手技能系社員の育成の現状と課題について見ていきたいと思います。
「求めている人材が採用できていない」のが現実
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査結果によると、新卒採用した技能系正社員の最終学歴で一番多かったのは工業高校卒で、34.9パーセント。次いで工業高校以外の高校卒が31パーセントとなり、多くの企業が技能系社員として高校卒業者を採用しているのが分かります。
しかし、同調査によると、新卒の採用で「求めているレベルの人材が採用できなかった」と考えている企業が63.6パーセントと過半数を占めています。規模別にみると、大企業よりも中小企業の方が「採用できていない」とする割合が高くなっているようです。
人材育成のカギは「定着率」
人材を確保するためには採用活動も大事ですが、その後の定着率が重要になってきます。長期的な育成を考えても、まずは職場に定着させることが大きな課題。同調査によると、新卒採用で3年以上勤務している人の割合が「90%~100%」の企業は44%、「70%~90%未満」の企業は26.9%とつづきます。
企業の規模別にみると、中小企業ほど定着率が低く、規模が小さい企業ほど、定着率が芳しくない結果になっています。せっかく新卒採用した若手の定着率が低いままでは、企業の多くが採用の目的にあげている「中核となる人材の育成」をすることができません。
多くのもの作り企業が、新卒社員を一人前にする期間を、3年以上と回答しています。若手社員の育成には、「職場に長く定着してもらうこと」がカギとなるでしょう。
定着させるための対策は?
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、中小企業は「定着率に問題がある」と認識していても、実際には「解決のための対策を重視していない」という結果になっています。
一方で、定着率に問題を感じていない企業は、「働きやすい職場環境にする」「若者が意見を出しやすい職場にする」などの対策を行っています。「求めているレベルの人材」にまで育成するためにも、中小企業も定着のための対策をほどこす必要があるでしょう。
育成に成功している企業の取組み
若手人材を順調に育成できている、と感じている企業は、どのような取組みを行っているのでしょうか?
同調査によると、多くの企業が「仕事の内容を簡単なものから難易度の高いものへと順番に経験させる」・「手順書などのマニュアルに沿ってすすめる」・「職場からの意見や提案を歓迎する」などの取組みをあげています。
教育方法をきちんとマニュアル化し、時間をかけて育てようという体制づくりが、成功の要因の一つかもしれません。
Off-JTの重要性
若手社員の育成において、現場で仕事をしながら訓練をするOJTの役割も重要ですが、体系的な知識を学び、より高度な技能を習得するためには、Off-JT(職場外訓練)が必要不可欠となります。
同調査でも、企業規模や業種に関係なく、Off-JTの機会を「現状維持」もしくは「増やしたい」と回答した企業は95.3%にまでのぼります。Off-JTへの関心の高さが伺えます。
OJTとあわせて、Off-JTの体制を整えることは、若手人材の育成を成功に導くカギになるのではないでしょうか。
育成と定着が生む好循環
若手技能系社員の「育成」と「定着」という観点から、独立行政法人労働政策研究・研修機構で実施した調査結果を紹介しながら、見てきました。
新卒採用の多数を占める高卒新卒生を育成し、定着させることで、数年後、中堅層の熟練技能士として後輩の育成を担っていくという好循環がうまれます。ものづくり業界全体の活性化のためにも、製造業の新卒採用者の大多数を占める高卒新卒生をていねいに育成する体制を整えていく必要があるのではないでしょうか。