人手不足が深刻な問題となっている中、若手の人材として高校生の人気は上がるばかりです。その一方で、早期離職率の高さが問題になっている高卒就職生。ミスマッチを事前に防ぐのに有効だとされる「バイターン」という取組みがあるのをご存知でしょうか?
「バイターン」って何?
バイターンとは、アルバイトとインターンシップをかけあわせた造語です。賃金が支払われるバイトと、キャリア教育の一環として実施されることが多いインターンシップの、それぞれの良さを組み合わせたプログラムです。
「バイターン」の仕組みはシンプル
バイターンを実施する仕組みはとてもシンプルです。
① 受入れ企業と生徒をマッチング
② 生徒への事前研修
③ インターンシップとして職場体験
④ アルバイト雇用
⑤ 双方の合意の上、正規雇用開始
「バイターン」は、高校生と企業の双方にメリットがある
最初にインターンシップとして職場を体験することで、高校生は、「やりたい仕事」が本当に自分に合っているのか、気づくきっかけになります。違うと思えば、別の職業に目を向けることができます。合っていると思えば、企業と面接後アルバイト契約を結び、より深く「その会社で働く」ことを経験、理解できるので、正規雇用開始後も、ミスマッチが起こる可能性は低くなります。
受入れ企業は、面接だけでは分からない高校生の適性が、バイターン期間の中で、よりよく分かってきます。生徒に課題がある場合も、早期発見ができ、学校やコーディネーターと連携して解決することが可能です。
高校生と企業の双方が、お互いのことをよく理解した上で就職することができるので、早期離職を防ぐことができます。
「有償化」で変わる、双方の意識
「学校がアルバイトを斡旋するのか?」「学業が優先では?」という見方もあるでしょう。
「インターンシップを長期で実施すればいいのでは?」という意見も出てくるかもしれません。
しかし、インターンシップでは、高校生はあくまで「企業の仕事を見学しに来ているお客様」として扱われます。高校生も甘えがでるでしょうし、企業にとっても長期の対応は負担が大きくなります。
「有償化」することで、高校生の取り組む姿勢が変わってきます。企業も、通常業務の中で指導を行うことができます。有償化することで、「見学」から「働く」に意識をシフトすることができるのです。
普通科高校が抱える悩みも解決?!
内閣府は「学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の中で、「仕事に就くために必要な教育プログラムの提供など、学校の役割は極めて大きい」と提示しています。アルバイトは職業経験をつむ授業の一環だと捉えることもできるのではないでしょうか。
就職を見据えた授業がある工業高校や商業高校に比べると就職率が低い普通科の高校ですが、内定を獲得した高校生の多くはアルバイト経験があるそうです。
一発勝負の面接で重要視される「コミュニケーション力」や「協調性」を、働くことを通して自然と身につけることができている証ではないでしょうか。
学校が行う職業教育の一環として、就職を希望する高校生に、アルバイト経験を保証してあげることができれば、普通科高校の就職内定率上昇も期待できるかもしれません。
バイターンの成功と継続に必要な「資金」と「メリット」
2012年に神奈川県の公共事業として始まった「バイターン」。現在はさまざまな自治体のNPOでも活動が模索されていますが、資金調達が厳しいのが現状のようです。
無償のインターンシップとは違い、企業はアルバイト代を支払う必要があります。内閣府の「子供の未来応援基金」を使用して運営を行っているNPO団体もあります。国や自治体から補助金がでることが一番望ましいですが、クラウドファンディングを利用するなど寄付によって資金を得ることも可能でしょう。
また、バイターンは、受入れ企業がなければ成り立ちません。企業が「受け入れたい」と思えるメリットがなければ、バイターンの継続は不可能でしょう。
では、企業にとってのメリットとは、なんでしょうか?
「100人を超える応募があり、面接をして5人採用したが、1年もたたず全員辞めてしまった」
このような経験をした中小企業も多いのではないでしょうか。
バイターンなら、面接だけでは分からない性格や適性を把握することができるので、入社後のミスマッチを防ぎ、早期離職者の数を減らせます。
高校生がアルバイトとして入ってくることで、若手社員は後輩を指導する経験ができます。早期離職などで、なかなか後輩ができにくい環境の場合、若手社員が自分達の仕事を高校生に伝えることは、モチベーションアップにも繋がり、企業の活性化が期待できます。
バイターンの最大の魅力は「納得して就職できる」こと
バイターンは、就職を希望する高校生と中小企業を繋ぐ取組みです。
高校生は働く「会社」のことを、企業は働く「人」のことを、深く理解し、お互いが納得して就職できるので、早期離職を防ぐことができます。
たとえ就職に結びつかなかったとしても、高校生にとって、バイターンで働いた経験は、次のステップアップの糧になります。バイターンで身につけた「職業観」や「コミュニケーション力」、「協調性」は、必ず、納得のいく就職へと結びつきます。これこそ、キャリア教育・職業教育の目指すところではないでしょうか。