さまざまな制約がある高卒就活ですが、「校内選考」という慣行が存在してきたのをご存知でしょうか?
企業からの求人に対し、募集人数を上回る生徒が応募を希望した場合、高校では事前に学校内で選抜をして、応募する人数の調整を行っていました。事前調整である「校内選考」は、採用試験で不合格になる生徒を減らし、企業にも一定水準以上の生徒を送り出すなどの一定の効果があるとみられてきました。
「校内選考」の基準は、学校ごとに独自のルールがあります。多くの学校は、欠席・遅刻の日数や評定平均がベースになり、そこにボランティアなどの課外活動、面接の評価などが加点されます。就職希望先の企業が競合した場合、高校生活の評価を基準に評価の高い生徒が優先されるので、「まじめに高校生活を送ると就職に有利」という生活指導、社会化教育といった機能も果たしていました。
高校生の就職希望者が多かった時代には一定の役割があった「校内選考」「学校推薦」システム。近年では、さまざまな理由により「校内選考」を行わない学校が増えてきました。
学校が生徒を企業に振り分けるような就職指導ではなく、生徒の主体性を尊重して、就職応募企業を選ばせる指導方法に変わってきているのです。
その理由として、以下の6点が挙げられます。
①生徒の価値観が多様化
高卒新卒採用の需要の高まりにより、高校生への求人が増加しています。また、生徒の価値観も多様化し、特定の求人に希望が集中することが少なくなってきています。そのため、事前の選考による調整の必要が減少しました。
②就職者人数の減少
以前は、一定のルールで選別しないと就職を希望する生徒の受験先を決めることが困難なほど、たくさんの就職希望者がいました。しかし、昨今は就職を希望する生徒が減ってきており、学校側も、画一的な「校内選考」ではなく、生徒それぞれの希望や個性に合わせて就職先を決めるプロセスに手をかける余裕がでてきました。
③成績の指標としての有効性が低下
以前から「高校が優秀だと思う生徒と、企業が優秀だと思う生徒の認識が異なる」とよく言われていました。学校側にも、成績という数字だけでの評価に限界があるという認識があるようです。特にこれまで成績に重きをおいていた商業高校において、変化が顕著にみられます。
④保護者への説明責任
校内選抜の結果に納得しない保護者への説明責任は、教師にとって強いプレッシャーでした。本人の希望を優先する、という指導にすることで保護者の不満が生じにくくなります。
⑤企業と学校の信頼関係の継続困難
就職者が減っているため、長年実績関係を築いてきた企業にも生徒を送りこめないケースが生じています。質の高い生徒を送り込むことで構築してきた企業との良好な関係ですが、その継続性を保つこと自体難しいという認識が学校側に出てきました。そのため、生徒の質を担保できなくても、企業の信頼を失う懸念は以前ほど強いものではなくなっています。
⑥離職の懸念
高卒就職者の3年以内の離職率は40パーセントになると言われています。校内選考の結果、第一志望が受験できず、志望度の高くない企業に入社することは、早期離職のリスクを高めるのではないか、という懸念が高まっています。就職活動における、生徒本人の主体性や納得度がとても重要だという認識が広まってきていると言えるでしょう。
「より多くの生徒が、1度の応募で就職先が決まるようにするため」・「優秀な生徒を送り出し、企業との信頼関係を築くため」など、いろいろな理由から行われていた校内選考。ここで挙げた6つの理由から考えても、生徒が自ら責任を持って自分が働きたい会社を選べるような就職指導が求められているのではないでしょうか。